4-11 作物品質向上メカニズム
有機質肥料(有機質資材)の施用と土壌水分の制御によって高品質農産物の生産が可能になることは経験的に知られていました。当時東京大学教授であった森敏は、過去の研究結果を精査するとともに非常に細密な実験を行い、農作物の品質向上メカニズムを明らかにしました。図53-1は、森51)によって提案された有機質肥料、有機物施用によって、なぜ高品質生産が可能となるかを説明した図に真弓45)が「省窒素栽培」と「節水栽培」の影響を書き加えたものです。
森は、農産物品質向上メカニズムを「窒素の緩効的な肥効」と「低く安定した土壌水分」の二つで説明しています。過去の多くの試験結果は、作物栽培における量と質の二律背反を示しています。窒素施用量(窒素吸収量)と品質(糖含有量)との関係、収量と品質との関係はいずれも負の相関が認められる例が大半です。有機質肥料のもつ窒素の緩効的肥効は、作物の体内蛋白含有量を低下させます。そのことが、質を高めると同時に収穫物の保存性を向上させます。緩効的に窒素が効くということは、一方では光合成産物である糖が常に余裕を持って窒素の同化に使われていると言うことですから、間接的に糖含量の増加に寄与すると考えられます。
有機物(有機質肥料)の施用は土壌の団粒化を促進します。団粒化によって土壌水分が安定し、低い土壌水分を保ちます。土壌水分が少なくなると、植物体は水分欠乏状態になります。低水分状態におかれた植物は、低水分状態に対する維持機構を発現します。低水分状態におかれた植物は、ミトコンドリアの構造破壊(呼吸の低下)と体内デンプンの分解を起こします。デンプンの分解によって糖が作られるとともに、呼吸の低下は糖消費を抑えます。その結果、体内糖含量が上昇します。糖含量の上昇は、貯蔵性の向上とビタミンCやβカロテンなど、栄養成分の増加をもたらします。 |