1-6 畑地と水田での無機化特性の比較
前のページ(スライド8)では、有機質肥料の畑土壌中における無機化に及ぼす土壌水分の影響について議論しました。飽和容水量の30~70%水分の範囲では無機化に及ぼす影響は小さいが、土壌水分が低くなると硝酸化成は遅れる傾向にありました。では、水田(湛水)土壌ではどうでしょうか?水田状態では土壌が還元化される(酸素が少ない)ため、土壌微生物相は畑地とは大きく異なっています。水田では硝酸化成は起こりません※。肥料の種類によっても異なりますが、概ね畑地より無機化は遅くなる傾向にあるようです。菜種油かすやひまし油かすは畑地より無機化が遅くなります。図9-1は室内実験の結果ですが、菜種油かすは初期の無機化が遅くなり、最終無機化率も低くなっています。一方、魚かすや蒸製骨粉では差がありません。図9-2は、岡山県農総セ73)が公表している菜種油かすとひまし油かすの現地圃場での無機化予測結果です。このデータは無機化試験データを基に、現地の土壌温度変化に基づいた無機化予測結果です。これをみると、菜種油かすとひまし油かすともに水田の方が無機化は遅くなっています。畑土壌では概ね20~30日くらいで最大無機化量に達しています。一方、水田土壌では40~60日を要しています。図11-1では、鶏の羽から作られたフェザーミールという肥料が、畑地と水田では無機化特性が全く異なっています。畑地ではかなり速効性の肥料ですが、水田では強い緩効能を示しています。フェザーミールは、水稲元肥に活用され、その長い肥効によって、一発肥料の原料として省力施肥に役立てられています。
IBDU、ホルム窒素(UF)、CDUなどに代表される化学合成緩効性肥料はどうでしょうか?これらの肥料は加水分解または微生物分解によって肥効を発現します。被覆肥料は土壌水分の影響をほとんど受けませんが、IBDUは加水分解であるため、土壌水分の影響を強く受けます。畑地でも土壌水分が高いほど分解が速くなり、UFやCDUは畑地に比べ水田での無機化はかなり遅くなります82, 83)。
※水田表層土は酸化層になっているため硝酸が生成され、下層土に移動した硝酸は脱窒菌の作用で再還元され窒素ガス(N2)として大気に放出される。これを脱窒といいます。 |