トップ > 有機肥料講座
有機肥料講座
6. 作物は無機だけを吸収しているのか?

 リービッヒの無機栄養説(1840)以来、植物は無機物で栄養(養分)を吸収すると考えられてきました。植物は、自身で無機物から有機物を合成できる。このことが動物との決定的な違いであると言われてきました。この考え方は、本講座の第2章でも解説したとおり、将来とも変わらない真実だと考えています。事実、養液栽培では水に溶ける無機栄養素だけで作物は健全に生育します。無機窒素が作物の主要な給源であるとの考え方に立ち、各地で無機窒素発現予測などに基づき大きな成果をあげてきました。しかし、作物は無機しか吸収しないのか?答えはノーです。作物間に差があり、普遍的とは言えないまでも、作物は有機を吸収していると考えられます。いくつかの研究成果を紹介し、作物の窒素吸収戦略について考えてみたいと思います。
何度も言っている通り無機栄養説を否定するつもりはありません。農作物の主たる窒素給源は無機態窒素(アンモニアまたは硝酸)です。森林では化学肥料はもちろん人為的に施肥されることはありません。でも、見上げるような大木が育っています。森林の窒素収支が明らかになり、無機態窒素で一応の説明がつけられています。Nosholmら(1998)は、長期間落葉が堆積した森林において樹木は無機態窒素よりアミノ酸を好んで吸収しているとしました。有機吸収には種間差があるようですが、植物は有機態窒素を利用する能力を備え、環境変化に合わせて無機と有機を使い分けています。これこそ、植物の対窒素戦略の勝利・・・。
島根農試(現島根大)の松本ら(2001)は、各地の農業試験場等で行われた試験研究結果を見直し、「土壌中の無機窒素濃度との関係だけでは作物の生育量や収量あるいは窒素吸収量が説明できない」事例が少なからず存在していることを指摘しています。

 松本ら(1999)は、稲わらと米ぬかの4:1混合物(N0.25%、C/N比18.9)をNで25g/kg施用した土壌で種々の野菜を栽培しました。その時の栽培期間中の土壌中無機窒素(アンモニアと硝酸)濃度は、稲わら・米ぬか施用区の方が無施用区より終始低い値で推移しました(図6-1)。また、アミノ酸態や蛋白態の窒素は、稲わら・米ぬか施用区の方が高く推移しました。もし、作物が無機養分だけを吸収するとしたら、当然無施用区の方が窒素吸収量は多くなるはずです。ところが、稲わら・米ぬか施用区の吸収量の方が多くなる作物や両区に差のない作物がありました(図6-2)。ピーマンとリーフレタスでは無施用区の窒素吸収量が多く、土壌中の無機態窒素濃度を反映した結果となりました。ニンジン、チンゲンサイ、ホウレンソウでは、明らかに稲わら・米ぬか施用区の窒素吸収量が多く、無機態以外の窒素も吸収していると考えられました。キャベツ、ブロッコリー、カブ、ダイコンの窒素吸収量は、両区にほとんど差がありませんでした。さらに、稲わら・米ぬかより無機窒素供給能力の高い菜種油粕(C/N比7.0)でもニンジン、チンゲンサイ、ホウレンソウでは菜種油粕施用区の窒素吸収量が無施用区を上回り、ピーマンとリーフレタスの窒素吸収量は、無施用区の方が多くなりました(図6-3)。
山縣ら(1996・1997a)もリクトウ、ダイズ、トウモロコシを用いて松本らと同様な結果を得ています。さらに、放射性窒素を用いて詳細に検討した結果、イネはダイズ、トウモロコシに比べてアンモニア態、アミノ酸態、低分子有機態窒素の吸収能力が高く、根圏での有機態窒素の無機化能力には大きな差がないことなどを明らかにしています。
6_img1.gif

 また、森(1979a・1979b・1986)は、アミノ酸、蛋白質、核酸を裸麦やイネが優先的に吸収する場合があることを認め、NishizawaとMori(1977)は、水耕栽培イネを用いて有機態窒素源(蛋白質)を利用できることを明らかにし、その吸収機構を明らかにしています。
土壌中の有機態窒素、施用された有機物由来の有機態窒素の存在状態について、Matsumotoら(2000a・2000b)は種々の検討を行っています。土壌に易分解性有機物が供給されると、それらが分解していく過程で、土壌微生物による新たなアミノ酸およびアミノ糖の合成を通して組み替えられ、最終的には細菌の働きにより、分子量8000~9000程度の比較的均一な蛋白様化合物が生成され、土壌の腐植物質や有機無機コロイドに結合・吸着され集積されると考えられました。また、この蛋白様化合物は土壌コロイド中の鉄やアルミニウムと結合して比較的難分解性となり、無機化窒素の給源として存在していると考えられました。さらに、リクトウ、ニンジン、チンゲンサイ、ホウレンソウはこの有機態窒素を吸収する能力が高いことを認めました(山縣ら1997a・1997b、Matsumotoら2000c)。この有機態窒素化合物の可溶化と吸収機構については、いくつかの可能性が指摘されていますが、十分に整理、理解されるには至っていません。しかし、作物間差があり、普遍的ではないにしろ、作物は有機態窒素を吸収・利用していると考えられます。
 有機肥料窒素の無機化率は、せいぜい70%であることや、無機化された窒素のすべてが吸収・利用できることはない、従って有機肥料の肥効は化学肥料より劣るとされてきました。しかし、施用された有機肥料がそのまま吸収されているわけではありませんが、作物の窒素吸収反応と施肥を考える上で、有機態窒素についても考慮する必要があると思われます。
植物の有機吸収についてはWeb資料館掲載の「トピックス 植物の窒素吸収戦略--植物は有機を吸収している。はたしてBSEプリオンは・・・?」にもう少し詳しく書いております。ダウンロードは >> こちら から

6_img2.gif

 6_img3.gif

PAGETOP